8.ローヤルゼリーの抗菌作用
八並一寿,越後多嘉志(日本)
(第30回国際養蜂会議)
 
ローヤルゼリーは、人間に対する栄養かつ生理作用の面より、価値ある食品として知られてきた。最近、人々が健康に留意する傾向とともに、その消費量は増大している。ローヤルゼリーの化学成分に関する報告によると、ローヤルゼリー中にはタンパク質や脂質が多く含まれるため、変敗しやすいと考えられるが、実際には品質において安定である。ところで、ローヤルゼリーの抗菌作用に関する報告は、すでになされているが、その定量的報告はほとんどない。
そこで本研究は、ローヤルゼリーの抗菌作用を定量的に調査し、さらに、ローヤルゼリー中の活性あるフラクションや物質について調査した。また、ローヤルゼリーで活性ある主要な脂肪酸の1つである10-ヒドロキシデセン酸の抗菌力と、他の脂肪酸の抗菌力の比較を行った。さらに、各種脂肪酸の活性と、その化学構造との関連を考察した。また、貯蔵中に起こった抗菌活性の変化が、ローヤルゼリー中の物理化学的変化と、いかに関連しているかを調査した。


試料ならびに方法

結果ならびに考察
1.試料
 セイヨウミツバチ(Apis mellifera)から集められたローヤルゼリーは、日本の岩手県産である。王台から集められたローヤルゼリーはただちに凍結され、フリーザー中で−40℃に保存した。

2.試験菌ならびに培養
B.subtilis Marburg 168, S.aursusFAD 290PならびにE.coli W3110をローヤルゼリーならびに各種脂肪酸の抗菌活性定量のために使用した。培養菌は、寒天斜面培養より1白金耳10mlの普通ブイヨン培地に接種し、37℃で1晩、振とう培養した。

3.抗菌活性の測定

a)試料:ローヤルゼリーから分画したフラクションは、エーテル抽出物、エーテル不溶物、ペプチド区分、透析内液区分である。新鮮ローヤルゼリーならびに貯蔵したローヤルゼリーと、エーテル不溶区分、ペプチドおよび透析内液区分は、それぞれ蒸留水で一定濃度に希釈した。

b)抗菌活性の測定:抗菌活性の測定はペーパーデスク法によった。それぞれの試料はクロラムフェニコールの力価に換算した。

4.貯蔵試験

a)貯蔵条件:ローヤルゼリーは5℃、温室37℃の各種の温度条件で、密閉容器中で貯蔵した。温室で貯蔵したローヤルゼリーは、明所および暗所に分けて貯蔵し、37℃においては、脱気したものと脱気しないもの2種類の貯蔵を行った。

b)抗菌活性の測定法:ローヤルゼリーは、上記の各貯蔵条件下で貯蔵し、生ローヤルゼリーから分画されたエーテル可溶区分、およびエーテル不溶区分の抗菌活性もそれぞれ調査した。貯蔵中の抗菌活性の変化は、新鮮物の活性当たりの百分率で表示した。

c)粘度の測定:100日間、各種条件下で貯蔵したローヤルゼリーの粘度は、コーンプレート型粘度計により求めた。

d)濾過:一定期間貯蔵したローヤルゼリーを脱脂してゲル濾過を行った。ゲル濾過は、5℃の蒸留水で平衝化したセルロファインGC−700−mカラム(1.5X78cm)を使用して行った。

1.生ローヤルゼリーならびにローヤルゼリーから分画したそれぞれの区分の抗菌力
れぞれの試料のB.subtilisに対する抗菌活性は、S.aureusに対する値とほぼ同じであった。エーテル抽出物区分の抗菌活性は、生ローヤルゼリーやエーテル不溶物区分のそれよりやや強かった。ペプチド区分や透析内液区分にも強い抗菌活性が認められた。

2.10−ヒドロキシデセン酸および他の脂肪酸の抗菌力
1g当たりの短い鎖の脂肪酸の抗菌活性は、調査した3つの細菌に対して、炭素数6の脂肪酸が今回調査した脂肪酸の中で最も強かった。さらに、10−ヒドロキシデセン酸の抗菌活性は、他の炭素数10の脂肪酸のそれよりも強かった。
 それぞれの脂肪酸をアルカリ溶液でpH7に中和したところ、短い鎖の脂肪酸の抗菌活性は、調査した、どの細菌に対しても全く活性を示さなかった。また、炭素数10の脂肪酸はpHを調整していない試料と比較するといくらか低下した。

3.貯蔵試験

1)ローヤルゼリー貯蔵中の抗菌活性の変化
生ローヤルゼリーおよびローヤルゼリーのエーテル可溶物区分の抗菌活性は、ローヤルゼリーが高い温度条件下で貯蔵されると、急速に低下した。エーテル不溶物区分の抗菌活性は、温室約37℃における条件においては、30〜40日以内に完全に消失した。

2)貯蔵中ローヤルゼリータンパク質のクロマトグラム変化
各種貯蔵条件下貯蔵されたローヤルゼリー中のタンパク質の変性を調査するため、ゲル濾過を行った。ローヤルゼリーの貯蔵中のクロマトグラムにより、分子量の増大が起こっていることが示唆された。さらに、貯蔵中におけるタンパク質の不溶化が、タンパク質のコンホメーション変化に関係しているように思われた。

3)貯蔵中ローヤルゼリーの粘度変化
高温条件および明所に貯蔵されたローヤルゼリーのShear stressは、低温条件および暗所に貯蔵されたそれよりも明らかに増大していた。

以上の結果より、貯蔵中の粘度の変化は、ローヤルゼリー中のタンパク質の変化による構造変化のためであると示唆された。さらに、この粘度変化は、日光や高温貯蔵により加速される。従って、ローヤルゼリー中の抗菌活性の減少は、ローヤルゼリー中のタンパクの不溶化と密接に関連していると思われた。なぜなら、タンパク質の不溶化によって、ローヤルゼリー中の活性物質が抗菌活性測定用の寒天培地上を拡散できないため減少した、と考えられるからである。

9.ミツバチ生産物の2,3の効用(特にローヤルゼリー)
−フランス・Donadieu博士の新書から−
関沢泰治

ミツバチの生産物には、ハチミツローヤルゼリー、プロポリス(peopolis,ハチヤニ),花粉糖があるが、特にローヤルゼリーについての効用をのべる。

−ローヤルゼリーの効用−

組織呼吸の増進による老人の神経・精神的平衡の改善,副腎機能の増進,造血機能の活性化による貧血治療,食欲改善による消化増進,健康体としての自覚形成,活性感,強壮感,幸福感の充実。
以上の効果から、ローヤルゼリーを服用することによって次のことが期待される。

●健康人では・・・充分の自信をもった良好な肉体的,性的,あるいは知的なアウトプットが得られること。例えば,スポーツ家のように一過性に強烈な活動をする時の肉体的,知的な疲労に対する強い抵抗性をうること。各種の侵襲に対する闘争能力を強めること。一般的な老化,特に皮膚,毛,爪の老化の減少,これはローヤルゼリーに多量に含有されるパントテン酸の効果による。アミノ酸,ビタミン,ミネラル,微量ミネラルなどの食物での不足をある程度緩和。

●病人では・・・
肉体および精神的な無力症の改善,食欲不振または食欲消失における改善。体重減少または衰弱の回復。基本的な肉体上の欠乏症、栄養欠乏症の改善。

●特に有効な療法での適用

消化器系・・・食欲不振改善、これはローヤルゼリーの食欲調節効果による。ローヤルゼリーは正常の食欲には僅かの効果しかないけれども、慢性、あるいは一時的の食欲不振を速やかに顕著に増進する。各種の消化不良の改善、消化器潰瘍に対し、ローヤルゼリーは優れた補助剤である。交感神経からの原因が主である大腸炎の改善。肝循環失調をしばしば顕著に制御する。アルコール中毒症の改善。

心臓および循環器系・・・老人の同時値性貧血症の改善。動脈低血圧症、動脈硬化症、その結果起こる高血圧の改善。ローヤルゼリーは動脈圧を調節する物質を含むように見える。病因学的に詳細未詳な神経循環系失調、目まい、聴器雑音、高コレステロール症などについては、度々興味ある結果を示すが、さらに検討を要する。

泌尿・生殖器系・・・男性の陰萎、性欲減退の改善、特に加齢による生殖能力の減退による場合効果がある。女性でのある種の不感症の改善。女性での機能的生理については、ローヤルゼリーにより良好な効果と調節が見られる。尿失禁を 改善する。

神経・精神系・・・神経衰弱、不安および恐怖症の改善。不機嫌とその調節。ある種の不眠症、記憶力減退の改善。小児ダウン症候群では、筋肉の興奮消退とともに精神領域での発育を改善。

皮膚科系・・・角質性および脂漏性皮膚病などある種の皮膚疾患、乾皮症、紅斑性狼瘡の改善。

その他・・・抗カゼ活性(予防的効果)。ぜんそく、パーキンソン病に興味ある結果を得た報告もある。カナダでの実験では、マウス移植ガンでは、ローヤルゼリーを混ぜたガン細胞移植では、活着が著しく阻害されたという。

10.ローヤルゼリー(蜂乳)臨床報告《中国》


a)急性伝染性肝炎の治療
1%ローヤルゼリー蜂蜜(ローヤルゼリーと蜂蜜を混ぜたもの)を4歳以下は5g、5〜10は10g、10歳以上は20gを、1日1剤、2回に分け服用し、20日を1クールとし、3クール続ける。22例の治療では、各種の症状は3〜14日以内に著しく好転し、肝臓は3週間ほどで顕著に縮小した。血清トランスアミナーゼは10日前後で40単位以上に下降、もしくは正常に回復した。そのほか、各種の実験室での検査も9〜18日内で著しく好転した。肝臓機能の改善にも良好な作用がある。しかし、応用過程で、少数の症例に好酸球の絶対数が以前より増加し、洞性不整脈(このうち1例は補充収縮を併発)、皮疹、下痢などの反応がみられた。
〔中国医学科学院:医学科学参考資料〕


b〕慢性リウマチ様関節炎の治療

毎日ローヤルゼリー400mgを3〜6ヶ月続けて服用する。初歩的観察28例では、著効(全身症状が改善され、関節疼痛著しく軽減したもの)7例、有効(全身症状が改善され、関節疼痛が少し軽減したもの)3例、安定(全身症状は治療前と同じ、関節疼痛も改善しないが、急激な発作がなくなったもの)10例、無効8例。一般に服用第3〜4週で効果があらわれたが、少数は6〜7週たって治療効果が出た。服用期間中に副作用はみられていないが、時に口の乾き、頭痛、大便乾燥などがあらわれる。しかし短期間で自然に消失する。
〔同上〕

c)神経精神病疾患への応用
神経科で進行性筋栄養不良症16例を治療し、1日300〜600mgを半月から3ヶ月以上服用させたところ、著効3例、軽度の進歩1例であった。精神科で精神分裂症、麻痺性痴呆、更年期鬱症、ノイローゼおよび精神薄弱の計9例を治療した。最初は1日100mgを服用し、1週間ごとに服用量をしだいに1日800mg(1回の最大量を400mg)までふやし、服用6〜10週で総量が19,200〜30,600mgとなるようにする。結果は状態が明らかに活発となったもの1例、元気が出たもの2例、精神薄弱であるが以前より話が聞けるようになったもの1例、残る5例は進歩がなかった。
〔同上〕

11.ローヤルゼリー(蜂乳)薬理報告《中国》


a)生体の抵抗力を強化し、成長を促進する作用

ローヤルゼリーはマウスの低気圧、酸欠に対する耐性および高温耐性能力を強化するようである。そのあらわれとして死亡時間が対照群に比べて長くなり、かつ自然死亡率を低下させ、遊泳持続時間を延長し、ブドウ球菌やトリパノゾーマに感染したマウスの生存率を高め、牛乳によって起こるウサギの発熱開始時間を遅らせ、発熱持続時間を短縮する。人参と併用するとマウスの悪条件(寒冷、低気圧、酸欠、絶食、絶水、四塩化炭素中毒)のもとでの死亡率を減らすこともできる。また肝臓を部分切除したラットの体重と血清アルブミンを増加させ、血清と肝臓組織内のトランスアミナーゼは対照群よりも低く、ともに肝機能状態がよいことを示し、病理検査では肝臓細胞再生現象が旺盛である。しかし、四塩化炭素によって起こるマウスの中毒性肝炎には保護作用はない(血清トランスアミナーゼの活性と肝臓組織の酸素消費量は対照群と比べて著しい差はない)。一測の腎臓切除、および一測の腎臓の部分切除のラットにローヤルゼリーを3〜5週間与えると、腎組織の再生現象があらわれる。ローヤルゼリーには細胞の再生作用があるが、おもに新生細胞が老衰した細胞にとって替わり、組織呼吸、酸素消費を増加させ、代謝を促進させる。ラットの機械にはさまれた傷および切断した坐骨神経の再生を促し(病理切片検査)、後肢反射活動の回復が比較的速く、反応閾値も対照群に比べて低い。損傷した神経が回復するときにも組織代謝を増強する。ラットおよび鶏胚の発育を促し、低タンパクやビタミン欠乏試料で飼育したラットの発育を良くし、死亡率を低下させる。しかし少量投与ではローヤルゼリーは成長を促進させるが、大量投与すると成長を抑制するといわれる。

b)内分泌への影響

中国国外の報告によると、ローヤルゼリーは胸腺を萎縮させ、副腎皮質刺激ホルモン様作用があるという。中国の研究ではこの作用を否定するが、副腎中のビタミン含有用は増加する(特に還元性ビタミン)ため、組織酸化現象が強まる。また幼若なラットの甲状腺重量が増し、血漿および甲状腺中のタンパク結合ヨードも著しく増加し、かつメチルチオウラシルが抑制する甲状腺のヨード吸収能力も高まる。ローヤルゼリーには性腺刺激ホルモン様物質が含まれ、21日でマウスの卵胞早熟させ、ミバエの産卵量を増加し睾丸切除のラットの精の重さをやや増加させるが、卵巣切除のものには影響が少ない。

c)循環器系に対する
影響

ローヤルゼリーには2種の類似したアセチルコリン様物質が含まれており、ネコ・イヌに静脈注射をすると血圧の急速な下降を引き起こし、降圧曲線はアセチルコリンと似て、1mgのローヤルゼリーの降圧作用は1μgのアセチルコリンに相当する。この作用はアトロピンで拮抗されるがフィゾスチグミンによって強まり、血清コリンエステラーゼはこれを破壊し、アドレナリンおよびエフェドリンの昇圧作用に対しては影響がない。1日5mg/Kgのローヤルゼリーを連続2週間皮下注射しても腎臓型高血圧のイヌには降圧作用がない。蛙の腹壁に1.5〜5%のローヤルゼリー0.5〜1.0ml/匹を静脈注射すると、最初心臓の鼓動は正常より小さいが、2〜3分後に振幅が増大し、心臓収縮力が増強して、最後に収縮期に停止する。30mg/Kgをウサギに灌腸すると、in situの心臓の収縮振幅が大きくなり、作用が2時間以上持続する。直接カエルの摘出心臓、に注ぐと心臓は鼓動を停止し、アトロピンはこれに拮抗する。ほかの報告ではカエルの摘出心臓、ウサギの摘出心臓に対し、ともに抑制作用があり、アドレナリン、アトロピンはこの抑制現象に拮抗できず、1%の蜂乳生理塩水をカエルの腹壁に静脈注射しても影響はないという。ローヤルゼリー製剤のアピラック(Apilacum)はネコの摘出心臓の冠動脈血管ネコ・カエルの後肢血管、カエルの肝臓血管を拡大し、ネコに対しては明らかな降圧作用があるため、臨床上では慢性冠脈機能不全の患者に使用される

d)造血器官への影響

ローヤルゼリーはマウスの6−メルカプトプリンによる死亡率を下げ、延命効果があり、かつその骨髄抑制作用を軽減する。内服か注射でヒトの赤血球の直径と細網赤血球のヘモグロビンを増加させ、血中鉄分含有量を著しく増加させる。これは鉄の運搬を刺激することによって起こる。ラットに10日間連続して皮下注射すると赤血球、ヘモグロビンを増加させるが、白血球には影響がなく、かつ血小板の数を増加させる。

e)血糖に対する
影響

ローヤルゼリーは正常なラット・マウスおよびアロキサン糖尿病のラットの血糖を低下させるほか、アドレナリンの正常なマウスに対する血糖上昇作用に部分的に拮抗する。

f)抗癌作用

ローヤルゼリーのエーテル可溶部分のω−ヒドロキシ−−デセン酸は、移植性AKR白血病、6C3HEDリンパ癌、TA3乳腺癌および多種のエールリッヒ腹水癌などの癌細胞成長を強烈に抑制する作用があり、癌にかかったネズミを、対照群は生存日数がわずか21日であるのに対し、1年間生かすことができる。イタリアバチの幼虫のローヤルゼリーを経口投与か注射すると、エールリッヒ腹水癌のネズミに延命効果があり、腹水の発現が比較的遅く、癌細胞の成長に退行性変化があらわれる。

g)抗菌作用
ω−ヒドロキシ−−デセン酸の化膿球菌に対する抑制作用は、ペニシリンの役1/4で、大腸菌に対する抑制作用はクロルテトラサイクリンの約1/5,黄色ブドウ球菌に対する抑制作用はペニシリンに及ばず、かつ室温だと保存時間に従って効果が落ちる。グラム陽性菌に対する作用は陰性菌の2倍である。


h)その他の作用

マウスにローヤルゼリーを腹腔内注射すると鎮痛作用がある(熱板法)。ウサギ、ラット、マウス、モルモットの摘出腸に対し、強烈な収縮を引き起こし、アトロピンはこれに拮抗する。上述の動物の摘出子宮にも収縮作用を示すが、大量投与すると抑制する。
〈毒性〉ローヤルゼリーはマウス、ウサギ、イヌ、ネコに対しともに毒性をもたない。しかし大量のビタミンとホルモンを含むので、量が多過ぎると中毒を招くことがある。マウス、モルモットにアレルギー反応の起こることがあるが、100℃で15分間、3回加熱すると、そのアレルギー作用は消失する。


ローヤルゼリー(ロイヤルゼリー)
高麗人参 紅参丹 こうじんたん